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追憶(1973)
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10年以上前に観たときは、この映画を誤解していた。改めて見直すと、驚くほど素晴らしい映画だった。 この作品は、冷戦下の赤狩り(マッカーシズム)を背景にした物語である。時代に合わせて柔軟に、楽に生きようとするハベルと、絶対的な正義を信じて闘おうとするケイティの対立と愛を描いている。多くのラブストーリーと同じく、人生に円満な愛など存在しない。ふたりの出会いと別れは「共産主義」というボーダーを越えて行き来する。 冒頭のシーンが見事である。久しぶりにケイティが白い軍服姿のハベルを見かける。彼はバーカウンターで目を閉じて座っている。ケイティは彼のブロンドの前髪を優しくかき上げようとする。そして学生時代へ。パーマヘアのケイティは卒業に合わせて髪にアイロンをかける。髪を不自然に矯正している時代は、彼女が抑圧されている時代である。やがてハベルと別れ、ニューヨークで再会したとき、ケイティは再び地毛のパーマに戻し、原発反対運動に身を投じている。 ふたりの生活は常に抑圧の時代だった。愛とは抑圧の日々の積み重ねである。 文才のあるハベルに自らの限界を感じるケイティは、彼に近づくことを避けるが、ビールを飲む彼に見つかってしまう。靴紐を結んで別れる場面は切なく、冒頭で軍服姿のハベルをアパートに泊め、ベッドを共にするシーンで流れるケイティの涙は痛ましい。酔ったハベルは相手がケイティであることすら曖昧なのだ。この残酷さが胸を打つ。 ケイティがハベルの友人たちとホームパーティで交わす会話を中心に、物語は赤狩りの時代へと展開する。ワシントンに召喚されるハリウッド関係者を見過ごせないケイティと、静観するハベル。言い争いの中でハベルは「表現の自由などもともとこの国にない」と断言し、ケイティは反論する。アメリカは自由な国だと信じていたが、冷戦下ではソ連を恐れるあまり言論統制や盗聴で弾圧を強めていた。 やがてハベルの浮気が決定的な別れをもたらし、ケイティの出産を契機にふたりは別々の道を歩む。ベッドに横たわるケイティの顔が亡霊のようにオーバーラップし、ニューヨークでの再会シーンへと繋がって映画は幕を閉じる。 それぞれの道は交わらず、お互いを苦しめただけだった。ロバート・レッドフォードは何を着ても何をしても絵になる男であり、彼の存在感は圧倒的だ。スポーツも勉強もできる裕福な男と、貧しく努力家で正義感の強いケイティの物語は、格差を愛が埋めることはできないという厳しい現実を突きつける。半世紀前に作られ、さらに70年前を描いた物語の背景は、今もなお変わっていない。。
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