戦争、信仰、混沌、そして運命のカードゲーム

ウェス・アンダーソン監督最新作『ザ・ザ・コルダのフェニキア計画』は、前衛的かつ挑発的な映像美で観客を圧倒する映画だ。冒頭、プライベートジェットの後部座席に座る秘書の上半身が吹き飛ぶ衝撃的なシーンや、巨大なバスルームでコルダが風呂に入る高速度撮影シーンは、30テイクにも及ぶ撮影を経て完成しており、時間感覚を逆転させるアンダーソン独自の演出が光る。途中登場する靴箱には、監督の義父であるレバノン人から譲られた思い出の品がそのまま使用され、個人的な記憶と物語が絶妙に交錯している。

物語は、大富豪コルダが転落寸前の状況で修道女の娘リーゼルに事業を継がせるために仕掛ける大博打を軸に展開する。株式の持ち分を巡る策略、現実と天国（あるいは地獄）を行き来する超現実的な展開は、視覚的にも知的にも観客を試す。しかし、その背後にはアンダーソンならではの知性と計算が詰め込まれており、混沌とした物語の奥に鋭い社会批評と象徴が潜む。

特に、ラストシーンで流れるムソルグスキーの「キエフの大門」と、エンドロールで紹介される名画群は、ウクライナ戦争やコルダの武器商人としての一面を暗示しており、飛行機墜落の描写からは9.11を連想させるなど、多層的な象徴が張り巡らされている。

宗教的信念の対立も物語の重要なテーマだ。父であるコルダは聖書を信じず、リーゼルは信仰を生きる支えとしている。最後、ふたりが小さなレストランでカードゲームを通して事業継承を試みる結末は、過剰なまでに皮肉であり、人生の不確実性や人間の欲望を象徴するクライマックスとなっている。

総じて、『ザ・ザ・コルダのフェニキア計画』は、混沌と象徴が同居するアンダーソン流の実験的ドラマであり、観客に深い知的体験と視覚的驚きを提供する作品だ。