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鑑賞日 2025/09/14  登録日 2025/09/14  評点 65点 

鑑賞方法 映画館/東京都/ヒューマントラストシネマ有楽町 
3D/字幕 -/字幕
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美しさと痛みを抱えた高齢者の物語

劇場で本作を観ていると、ちょうど主人公たちと同じ世代の高齢女性が、近くでクスクス笑いながら、時にすすり泣いていた。その姿に、この映画の持つ力が自然と伝わってきた。

『最後のピクニック』は、ふたりの名女優が互いの信頼を前提に築き上げたドラマである。やりとりの中にはアドリブに近い自然な瞬間もあり、観客を強く引き込む。かつての『あん』における樹木希林と市原悦子の共演を連想させるが、本作はさらに切実で個人的な物語として立ち現れる。

物語は軽妙な笑いから始まるが、次第に重さを増していく。ウンシムの息子は事業に失敗しかけ、母の生命保険の書類を漁る。息子の妻は幼なじみグムスンの娘であり、孫娘の留学にしか関心がない。そんな都会の騒がしさを離れ、ウンシムは田舎のグムスンのもとで共同生活を始める。そこへ若き日にウンシムに想いを寄せていたテホが加わり、リゾート開発反対運動が絡むことで、笑いはいつしか笑えない現実に変わっていく。

細部の演出も鋭い。息子が母と添い寝する前に玄関の靴を揃える小さな所作は、韓国文化を示す貴重な一瞬である。さらに、ウンシムがパーキンソン病に苦しみ、グムスンが腰を痛め布団で失禁する姿は痛切だ。高齢者を描く物語は、そのまま我々の未来を映し出す。

クライマックスの坂道を登る場面は圧巻である。花々が咲き乱れる中、海を見下ろすふたりの姿に、冒頭でグムスンがチマチョゴリを着て歩いていた場面が重なる。なぜ彼女が正装してウンシムを迎えたのかが明らかになり、若き日のふたりの関係が終焉を迎える瞬間を観客に突きつける。

尊厳死という重いテーマを扱いながらも、本作は暗さに沈まない。むしろ明るさと美しさを纏いながら、高齢者とその家族に避けられない現実を真正面から描き切った。『最後のピクニック』は、高齢化社会に生きる私たちにとって、決して他人事ではない物語である。