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鑑賞日 2025/08/16  登録日 2025/08/17  評点 72点 

鑑賞方法 映画館/東京都/ヒューマントラストシネマ有楽町 
3D/字幕 -/字幕
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「影の主役はトランプ?──『入国審査』が描く権力と不条理」

この映画の巧妙さは、登場人物の行動以上に、人物の背後に聞こえる音に表れている。タクシーの車内で流れるラジオから「トランプ大統領」のニュースが聞こえる瞬間、映画がもたらす危機感はすでに十分に浸透する。映画に直接登場しないドナルド・トランプが、実はこの物語の影の主役であることが明らかになるのだ。

主人公ふたりのうち男性が最初からそわそわしている理由は、映画が進むにつれて徐々に明らかにされる。税関の前で並ぶふたりの姿は、見る者に緊張感を生む。主人公が税関を品定めでもするかのように「18番がいい」とほのめかす一言も、後の展開を知る観客には大きな伏線となる。

取調室に入ってからの演出も見事だ。「関心領域」を想起させる音の演出が巧みで、部屋の外で行われる工事や靴音、会話の断片が常に人物の背後で響く。取調官が席を外した隙に書類を覗こうとする紙の音、そして突然鳴る携帯の着信音。映画は常に、人物の知らないところで何かが起きているという不安感を観客に想像させる。移民として未知の国に踏み入れたふたりは、明るい未来を夢見る一方で、異質な不安と不条理に巻き込まれる。

男性の遍歴がパートナーの女性に知らされていなかったことが取調べで明らかになる場面や、ダンサーである女性に「踊れ」と命令する場面など、現代社会とは思えない拷問的展開が続く。権力と個人の非対称性が、ここで鮮やかに浮かび上がる。

そしてラスト。テロップに流れる Kevin Morby の「Congratulations」は、この一連の行為が権力の象徴であり、トランプの移民圧力を代弁するものであることを示す。つまり、入国審査の過程自体が一種の儀式であり、ブラフ外交を続けるトランプそのものを映画は象徴的に描いているのである。