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KNEECAP/ニーキャップ
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日本人が日本産の米を食べなくなったこととこの映画は大いに重なる。それはまるで、ゲール語(アイルランド語)を話さなくなったアイルランド人と同じではないか。給食でパン食に慣らされた日本人と、言語と文化を失いつつあるアイルランド人。果たして何が違うのだろうか。 本作は、実在のラッパーたちが自伝的に描くドラマである。劇中に描かれるのは紛れもない事実であり、ゲール語を話さなくなり、イギリスに文化を侵食されていく彼らの敵はまさにイギリスだ。サッチャー元首相の絵に落書きしたくなる気持ちもよく理解できる。 物語は、ゲール語の通訳として雇われた教師が、取り調べを行うアイルランド人とその友人たちと出会い、やがて3人でラップを始めるところから始まる。彼らはまさにフェニアン、アイルランド独立運動の秘密結社を彷彿とさせる存在として、ラップで世界を席巻しようとする。 舞台はベルファスト。独立をめぐる宗教と文化の深い対立が描かれ、かつてベルリンの壁のように街には分断の壁が存在する。映画に幾度も登場する壁画は、同じ民族内の分断を象徴している。 登場人物には、女性刑事と同居する姪、ゲール語の復権を願いながら通訳を務める教師の夫、厳格なカトリック教徒の父に見捨てられた息子(演じるのはマイケル・ファスベンダー)がいる。そしてラストで、息子を支えるために母親が身を挺するシーンは強い感動を呼び起こす。 ドラッグを嫌悪する人々と、真実を伝えようとするニーキャップ(主人公たち)との対立は、混沌とした現代社会の縮図を映し出す。ケネス・ブラナーの『ベルファスト』や『ぼくたちの哲学教室』と重ねて観ることで、彼らが直面する現実がより鮮明に感じられるだろう。 音楽の力が政治さえも動かそうとする強烈なメッセージが、この映画から世界へ発信されている。ゲール語を弾丸にして自由を獲得するという物語に、私は深いシンパシーを覚えた。 そして今、排外主義や軍国主義に傾こうとする国の人々は、この現実をただ黙って見過ごすつもりなのだろうか。
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