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We Live in Time この時を生きて
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素晴らしい映画。この国の陳腐で愚かなお涙頂戴ドラマとはまるで違う。知性と教養に満ちた感動的なドラマだ。シナリオもよく、人物の会話が実に楽しい。監督は「ブルックリン」(もう10年前になるか)のジョン・クローリー。 ロンドンを舞台とする工夫が施されたドラマは、主人公のアルがジョギングするシーンから始まる。この映画のタイトルはトリッキーで的を射る。時系列で並んでいないので戸惑いそうになるのだが、プロットがしっかりしているので、見る側は概ね戸惑うことがない。ネタバレになるが、主人公のアルがガンで死ぬことは最初からわかっている。これは黒澤明監督の「生きる」と似ているかもしれない。 アンドリュー・ガーフィールド演じるトバイアスが、離婚届に署名するペンのインクがなくなり、鉛筆の芯が折れ、仕方なくコンビニで買ったボールペンも道路に散らばり、それを拾おうとしたら車にはねられる。その運転手がフローレンス・ピュー演じるアルムート。 このふたりは子供に対する価値観に相違がある。シェフのアルは子供をいますぐ必要としていない。トバイアスは前の妻と子供のことがきっかけで別れた。ところがアルがガンになったことをきっかけに子供をつくろうと決意する。 病院に向かう途中お腹の赤ん坊が生まれそうになってガソリンスタンドのトイレで出産するシーンでもう涙が止まらない。映画は全体的にコミカルな作りだが、このシーンのあたりからこの作品の狙いが見えてくる。死を宣告された妻が残りの人生をポジティブに生きる決意をするドラマは、日常の中に埋没してしまう自分を掘り起こすきっかをつくろうとしているように思えてくる。悲劇的な結末に向かって進むドラマが光り輝いて見えてくる。 フローレンス・ピューの体当たりで大人の演技が見どころだ。頭を丸刈りにして挑む最後の瞬間は言葉を失う。夫に内緒で出場したシェフの大会も全力で戦う。しかし結果が出る前に彼女は夫と娘を連れてスケート場へと向かう。アルが父親に褒められて続けたスケートを、自ら辞めた思い出と、自分の娘と夫を引き連れてスケート場を滑走するラスト、それは彼女が行き尽くしたことを示すものだ。 そう、これは「生きる」だったのだ。
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