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東京暮色
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印象的なシーンの数々。小津調モノクロ作品で次の「彼岸花」からカラーになる。とにかく有馬稲子さんの演技がすごすぎる。父と姉妹という家族が崩壊してゆくホラー。姉が実家に出戻りし、妹が若い男性と関係をもち妊娠するが堕胎する。自暴自棄になった妹は、堕ろした子供の父親を何度も平手打ちし、電車にひかれ病院に運ばれる。ここまで堕ちた彼女は「死にたくない」と何度も繰り返す。このあと喪服の姉が雀荘を営む母親に妹が死んだことを告げに来る。 後半の演出は特に素晴らしい。子供を堕ろした妹がよちよち歩きをはじめた姉の子供を見て慟哭するシーンは胸を締め付ける。 生みの母親(山田五十鈴さん)と連れ合い(中村伸郎さん)が営む雀荘は、様々な情報が入り乱れ、生活に苦しむ妹を苦しめる。娘の苦しみを知らない銀行員の父親(笠智衆)は何もできない。善良な家族を取り巻く悪霊のような人物たち、例えば堕胎に協力する女医(三好栄子さん)、ラーメン屋のおやじ(藤原釜足さん)、雀荘で彼らの関係を実況する男やバーテン、父親の妹(杉村春子さん)、そしてなんといっても妹明子の恋人は最悪の人物だ。 しかしこのドラマが秀逸なのは、母親が家を出た理由など、この家族が崩壊するまでの過程を直接誰も語らない点だ。伝聞による伝聞が当事者を苦しめる過程は、昨今のSNSなどの中傷を予言する。ドラマの当事者がお互い秘密にしてることが伝聞で伝わり、廻り廻って当事者を苦しめる。 バーやパチンコ店や雀荘など当時の風俗を描きながら、そこに集う人々の平凡な生活をみつめつつ、その内面の心境を語り尽くす。時折人物にかかる影はまさに”暮色”。モノクロのトーンでありながら、有馬稲子さんを映す厳しい”暮色”のシーンが極めて印象的だった。素晴らしかった。
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