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ANORA アノーラ
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不思議な映画だった。ロシアの大金持ちと結婚する娼婦のはなし、というのは予告編レベルの印象であって、実際は全く違う。アニーがヴァーニャの家に籠城してひとりで手下(そのうちのひとりがイゴール)と格闘してFワードを連発するシーンからまるで違う話しになってゆく。 ひとりでロシア人と戦うアニーと、力で押しつぶそうとするロシアの富豪らによる圧力を、影になりながら応援するイゴールの物語に変わってゆくのだ。 権力や女性蔑視など、コミカルに描かれるドラマにまるで主張はない。そして登場する人物が幾度も衝突しあうシーンとは裏腹に、これらの原因となる格差や国家間の紛争やジェノサイド、あるいはこの映画が企画された頃のパンデミックなど、全く映画の中で語られないがゆえに、背景にあるより大きな存在がのしかかる仕組みになっている。 イゴールとアニーが車の中で結ばれるラスト。ヴァーニャから盗んだ4カラットをイゴールがアニーに渡し、その見返りとして本能的に体をイゴールに乗せるアニー。彼女が体を売って生きてきたことの本能的な悲しい帰結をイゴールが受け止めて抱きしめる。この恐ろしく激しい結末は、お互いがなにかに支配され、本能的にそれぞれの立場で生きてきたことの悲しさが押し寄せてくる素晴らしいラスト。イゴールは格闘、アニーは売春という格闘。体を駆使して生きるしかないそれぞれ底辺に存在する男女の現実をここに示している。
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