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ブルータリスト
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実話ではないらしい。 しかしドラマのあまりにもリアルな表現に、予備知識なしで見ると実話に基づく話ではないかと疑いたくなる。 冒頭のシーンは、少女が刑務所の取調室で供述を強要されているシーンから始まる。(その窓の彼方に映るのはもしかしたらF・ジョーンズか)そして主人公の建築家トートが命からがら逃げてきたニューヨークは自由の女神が逆さまに映される。これは彼が建てた建物の光が映す十字架が逆さまに示されるシーンと重なる。まさに運命が逆転してゆくドラマ。 フェリシティー・ジョーンズがいつ出てくるかと思って見ていると、途中で休憩が入り、そのあと感動の再会シーンになる。しかしそこには車椅子の妻がいる。そして念願の妻との再会はトートの人生を決して順調に進めるものではない。しかし彼女は夫を守るために、最後の最後でとてつもないことを起こす。 一度は拒否されたパトロン(ガイ・ピアース演じるヴァン・ビューレン)に才能を認められて力を発揮する主人公を待ち受ける試練。ドラッグとアルコールに依存しながら心と体の傷を癒やす機会を失いながらも、パトロンの求める巨大施設の建築を進める。 貨物列車が煙を吐いて進むシーンが恐ろしい。俯瞰で捉えるこのシーンの片隅がオレンジ色に染まる。列車事故の発生を示すシーンは、アメリカが第二次大戦後、朝鮮戦争などを経て世界の覇権国となってゆく経済成長のしわ寄せを思わせる。 ずたずたに傷ついたトートと妻のもとを無言の姪が離れて、イスラエルに行くと語る長回しのシーンもいい。ずっと言葉を発しなかった姪のジョーフィアは、パトロンの息子に迫られるなど、アメリカという国に絶望して、この映画で初めて吐く言葉が「アメリカを離れる」という決断だった。 最後にようやくこのブルータス建築の巨大な建物が年数をかけて出来上がったことがわかる。そして施設の狭いスペースと高い天井が彼らが囲われていた刑務所を意味するもので、トートの妻エルジェーベトに対する愛であることが明らかとなる。この映画が愛の物語だったことが最後に示されて終わる。 しかし、 この映画は実話ではなくフィクションなのだ。この映画の斬新性は、これがフィクションであるという、映画という手法そのものに刺激を与える壮大なる実験映画であることを示したのではないか。
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