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美しき諍い女
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バルザックの短編「知られざる傑作」の映画化。カトリーヌ・レスコーを主人公とした原作は、この映画でジェーン・バーキン演じる主人公の画家の妻のようだ。 映画が公開された年に鑑賞したが、やはりぼかしが気になる。ぼかす必要がこの映画にあるのか。エマニュエル・ベアールの美しさを阻害する。彼女の演じるマリアンヌの支離滅裂さが老いた画家を翻弄し、画家もまた彼女を解体する。 この映画は音だ。音の映画。冒頭とラストにかかるストラヴィンスキーの音楽以外ほとんど音楽は流れない。その変わりに人物の会話より、ありとあらゆる自然音、風の音や虫の声、食器や水の流れる音(トイレの水を滝のように出しっぱなしにするシーンも印象的)、なによりも画家がキャンバスに向かって振るう筆の音。画家とモデルの関係が行き来するドラマを哲学的に延々と見せる。 しかし、何度も繰り返しデッサンを繰り返した「美しき諍い女」は映画に出てこない。妻の上に重ねて描かれた本当の作品はどこにも出てこず、壁の中に埋め込まれて終わる。(このとき一瞬ちらりと作品の一部が見える)。 原作のプロットによれば、この作品はおびただしい色彩に覆われたもので、その作品を見た者をがっかりさせる。この映画でも、ニセの「美しき諍い女」を公開して、見るものを複雑な心境に貶めるが、画家とモデルの愛は、彼女が最後に彼女の恋人と決別することで終わる。(ナレーションの声が、実はマリアンヌであることが明かされる。) 延々と画家の作業を見せておきながら、この映画で作品は映されず、それぞれの人物の本音すら示されない。長く静かな映画は、画家とモデルの見えない対立と愛に包まれているのだ。 見えないものを見せる映画だ。
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