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異動辞令は音楽隊!
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まず、冒頭のシーンが尋常でないことに気づく。このファーストシーンでこの映画がとてつもない映画なのではないか?と思わせる。ある老婆が広い屋敷でテレビを見ている。黒電話、扇風機、豚の蚊取り線香、お笑い番組。そこに電話が鳴り、老婆が手前の黒電話の受話器を取る。電話の会話で、この映画ある事件を描く作品であることを一気に示す。そして再び老婆は画面の奥のテレビを見ている。すると画面には映らない玄関先でベルが鳴る・・・ というこの一連のシーンをワンカットで撮っている。このワンシーンが全てを物語るのだ。すごい演出だ。 暴力刑事が左遷されるコメディかと思って見るととんでもないことになる。この刑事は密告されて音楽隊に飛ばされるのだが、映画は最後の最後までこの冒頭のシーンを追いかける。『ダーティハリー』や『フレンチ・コネクション』のポパイ刑事のように、ルール無視の昔ながらの捜査。警察組織の問題を描くドラマという意味では『孤狼の血』や『L.A.コンフデンシャル』のうようでもある。この監督はおそらく多くの映画を見てきた人物なのではないか。過去の名作が色々よぎる。 音楽や踊りなどを題材にした映画でいうと『フラガール』や『スウィングガールズ』、あるいは『ウォーター・ボーイズ』のような選手んドラマがシンクロする。この映画は大人の映画でありながら青春ドラマでもある。刑事から左遷された中年男がふてくされてやる気を失ったところから始まる物語は、ある種の仲間とか相棒、この映画の中の言葉でいうと『セッション』という状態を醸成するような展開。 映画は次第にリズムを獲得し、やる気のなかった中年男性が音楽祭のチケットにスタンプを押すときのリズムで腑に落ちる。どんな仕事でも真剣に取り組めば楽しくなる。この映画の主題はここだと思う。真剣に向き合うことで救われる。 自らもこの映画の主人公と同じ経験をした者として、その場の立ち居振る舞いに悩むこともある。息子のような世代を上司にする立場の逆転。それでも自分を演じることができるか?という問いにこの主人公はとてつもい勇気を与えようとする。ラストシーンの輝くような主人公の表情に命を与えられた思いだ。
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