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劇場版ブルーバースデー
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冒頭から生ぬるい空気の漂うラブロマンス系の映画かと思いきや、いきなり主人公の一人が自殺する、という話しになって、タイムループしてそれを救おうとする女性の話しだ。『時をかける少女』や、世界で900億円を稼いだ『こんにちは、私のお母さん』など、かねてから多くの時間を行き来する傑作はあるが、このドラマ(映画)の視点の向けどころは少し趣きが異なるように感じた。ラストを舌ざわりのいいハッピーエンドとしているように見えるが、果たして本当にそうなのか?映画の冒頭、バースデーケーキが落ちて崩れるシーンは、この映画を見る側の常識を打ち破るぞ、という作り手の意思表示ではないか? (略) 10年というサイクルを行ったり来たりする物語だ。そして『バック・トゥ・ザ・フューチャー』などと同じで、過去を変えると現在も変化する、という切り口。学校の授業で「過去に学ぶことはできても、過去に生きることはできない。」ということわざを与えられ、主人公のハリンが写真館の主人に「過去を変えてはいけない。」と諭されるいくつかのシーンで物語の行き先はきまってくる。 愛するソジュンの死を覆したいハリンは、日付のある写真を燃やすことで過去にループするのだが、ひとつのことを変えると別の作用が生じるという連鎖構造に巻き込まれ、何度も行き来を繰り返すうちに、ソジュンが死んだ理由が明らかになってくる。それは彼が養子だったことが大きく影響しているらしい。 ここで少し話題を変える。近年の韓国映画の傑作のひとつである『はちどり』や『82年生まれ、キム・ジヨン』(この2作には連続性を感じる)だが、これらの作品には、いまから少し前まで韓国における男性優位主義、露骨にいうと女性には実存(生きる)権利がないという社会構造を示した点で画期的な作品であった。(残念ながら日本でこういう映画にスポンサーはつかないだろう。) 翻って本作を考えると、ソジュンが失踪した姉(女性)の代わりに迎えられた養子(男性)であることがこの映画の根底に示された主張なのではないかと考える。サスペンスドラマとしてソジュンが死んだ理由を探るうちに、この部分に行きつくのである。だから、この映画の変てこなラストシーンに違和感と恐怖を感じてしまう。これは本当のハッピーエンドなのだろうか。 ソジュンの姉が誘拐されたあたりのことは映画で詳しく触れていないが、このヘミンがなぜいなくなったのか?という部分がささやかにほのめかされていることで、この映画が単なるラブロマンスやサスペンス映画ではないことを示すのだ。彼女は捨てられたのだ。そしてこの映画にはほとんど父親が出てこない。女性に対する蔑視を描きながら父親を不在としているのは、『はちどり』や『82年生まれ、キム・ジヨン』も同じだ。 時代とともに変化する性差別への偏見だが、まだまだ根底には男性主義的な感情が我々には流れていて、それは女性も同じように思い込んでいることだと思う。主人公のハリンもまた同じで、彼女にもソジュンという男性に依存する強い意識があることを示している。 最後に、ソジュンと敵対する同級生のキム・シヌや、姉のヘミンを演じた俳優の演技に圧倒される。特にキム・シヌ役の俳優は、警察での取り調べシーンが圧巻だった。
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