1950年代半ばに彗星のように音楽シーンに現れ、後進のロック・ミュージシャンに多大な影響を与えた革新的黒人アーティスト、リトル・リチャード。だが当時のアメリカでは南部を中心に人種差別が激しく、音楽活動における承認欲求も長い間満たされずにいた。また、彼はゲイを公言する性的マイノリティーであり、陽気なキャラを演じつつ、人間的であまりに壊れやすい繊細な魂を持った人物であった……。1955年、『トゥッティ・フルッティ』の大ヒットで世に出ると、ヒット曲を連発して反権力志向の若者の心を掴むが、1957年、突如引退を宣言。そこから5年の“教会への回帰”を経て、復帰後はイギリス・ツアーを通じて無名時代のビートルズやローリング・ストーンズに決定的な刺激と影響を与えた。ピアノ演奏では左手でブギウギを、右手では打楽器的な打鍵を披露。激しいリズムを背景に、叫ぶように歌ったかと思えば、ピアノの上に立ち、衣服を脱ぎ捨ててステージを縦横無尽に駆けめぐる。現代では当たり前になっているパフォーマンスの数々が、約70年前にひとりの黒人シンガー・ソングライターによって開発されていたのだ。本作では、そんな彼の差別と偏見、栄光と苦悩の狭間で闘い抜いた魂の軌跡を、豊富なアーカイヴ映像、本人およびその親族や関係者、識者に加え、ミック・ジャガーやキース・リチャーズ、ポール・マッカートニー、デイヴィッド・ボウイらによる証言映像とともに詳らかにする。