福島第一原発から12キロのところにある富岡町。かつては農閑期には関東に出稼ぎに行かなければ生活ができないような貧しい農村だったが、1960年代末から始まった福島第一、第二原発の建設により町は潤い、豊かな生活ができるようになった。しかし2011年、福島第一原発の事故による全町避難で、町は無人地帯となった。ナオトはそんな富岡町にいまも一人で暮らしている。高度経済成長の裏側でカネに翻弄され続ける人生を送ってきたナオトは、原発事故後、人の人生を金で解決しようとする不条理や命を簡単に処分しようとする理不尽さに納得できず、この地に残された動物たちの世話を始めた。震災から10年、ナオトは動物たちに餌をやる日々を送り続けている。将来の糧のためにニワトリを飼い、ミツバチを育てはじめ、新たな命が生まれたり消えたりしていった。2017年には町の一部が帰還宣言をしたが、若い人たちは戻らない。2020年、“復興五輪”を掲げる東京オリンピックに向けて帰還困難区域にある夜ノ森駅が再建され、駅に行く道だけが開通された。しかし新型コロナウィルスの流行によりオリンピックは1年延期され、翌年、コロナ禍に翻弄されながら“復興五輪”のPRとして誰もいない福島の通りを聖火リレーが走った。原発問題には終わりがなく、汚染水は増えるばかり。それなのに全国で原発再稼働の動きが進められようとしている。そんな日本の矛盾の渦中にあるこの地で動物たちと暮らすナオトの生き方を通じ、日本の今を考える。