屋久島の荒波が打ち寄せる浜に立つ、弱ったガジュマルの木。造園家・環境再生医の矢野智徳がノコ鎌でガジュマルの周辺に空気が流れるよう草を払い、海へと流れる水みちに移植ゴテで軽く穴を掘っていくと、淀んでいた水は波紋を描いて流れ出し、ガジュマルは息を吹き返していく。30年以上のキャリアを持つ矢野は時に“地球のお医者さん”とも呼ばれ、全国の傷んだ植物や大地の治療にあたっている。生態系全体に関わる大地の機能は、造園業界や現代土木の世界、学術界でも見落とされてきた。矢野はそれを“大地の呼吸”だという。かつて人はそんな自然の循環を損なわずに暮らしており、“鎮守の杜”の“杜”という字は、「この場所を傷めず穢さず大事に使わせてください」と紐を張った場所を指した。ところが、1970年代から半世紀にわたり国土開発という名の土地利用は、大地を窒息させる方向へと突き進んできた。道路やダム、砂防堤、コンクリート擁壁やコンクリート側溝によって堰き止められた循環が、長い時間をかけて問題を起こしてきていると彼は危機感を募らせている。グライ土壌という空気や水が循環しない土の層が全国に広がり、それがバクテリアから小動物、植物の下草から高木、あらゆる生物環境の機能に問題をもたらしてきているというのだ。業界では変わり者と呼ばれながらも、かつての集落では当たり前だった“結(ゆい)”作業で環境改善を実践し、伝えてきた。それは“大地の再生”と呼ばれ、2011年東日本大震災をきっかけに共鳴する人が増えていく。福島県田村郡三春町にある玄侑宗久が住職を務める慧日山福聚寺では、3年がかりの造園工事で傷んだ枝垂れ桜をはじめ、境内の自然が改善されてきた。しかし、2018年7月、西日本豪雨、屋久島豪雨、台風19号災害と、抑圧されてきた自然が人間社会を襲い始める……。