芸人、松元ヒロ。かつてパントマイムや社会風刺コント集団「ザ・ニュースペーパー」で数々の番組に出演し人気を博した。しかし 90 年代末、彼はテレビを棄て、主戦場を舞台に移す。政治や社会問題をネタに笑いで一言モノ申す。ライブ会場は連日満席、チケットは入手困難。松元が 20 年以上語り続ける『憲法くん』は、日本国憲法を人間に見立てた演目。井上ひさしが大絶賛し、永六輔は「ヒロくん、9条を頼む」と言い遺した。その芸は、あの立川談志をしてこう言わしめた。「最近のテレビはサラリーマン芸人ばかり。本当に言いたいことを言わない。松元ヒロは本当の芸人」。だからこそ、いまテレビで彼の姿を見ることはない。そんな状況に強い危機感を募らせていたのは、松元の故郷、鹿児島のローカルテレビ局。2019 年の春から松元ヒロの芸とその舞台裏にカメラが張りついた。なぜ松元ヒロはテレビから去ったのか? なぜテレビは松元ヒロを手放したのか? そして本作はその答えを見つけられたのか? テレビで会えない芸人の生き方と笑いの哲学から、いまの世の中を覗いてみる。その先に、モノ言えぬ社会の素顔が浮かび上がる。