80歳の小堀鷗一郎医師が診察を行うのは、老いや病気と向き合う人たちの家。自らミニパジェロのハンドルを握り、患者たちの家々を診て回る。週に一度、80歳以上の入院患者を回診。冗談を交えた気軽なおしゃべりをしているように見えて、患者の体調だけでなく自宅の暮らしや介護環境についてさりげなく聞き出していく。小堀医師の個人オフィスは、屋根裏部屋だ。狭く急な梯子を登る足取りは軽い。祖父は明治の文豪で医師でもあった森鷗外。かつて東大病院で年間千件以上の手術を執刀していた。在宅医療を始めたのは定年後、67歳の時だった。小堀医師が勤務する「堀ノ内病院」の在宅専門の医療チームは医師4人、看護師2人で、140人あまりの在宅患者を診ている。91歳の浅海冨子さんがストレッチャーに乗せられて自宅に帰ってきた。「お家ですよ、わかる?」看護師や医師の呼びかけに冨子さんは「わかります」と答える。冨子さんの掌には夫との思い出の写真。集まった家族は、話しかけ、目を凝らし、意思の兆しを読み取ろうとする。孫娘たちが冨子さんの体をさする。やがて、医師が酸素マスクを静かに取り外す。「おばあちゃんありがとう。お疲れ様でした」人生をしまう時間(とき)、人は、家族は、何を望むのか……。