2011年春。アラブの春に始まった民主化運動はシリアにも押し寄せ、42年続くアサド独裁政権に対する不満と自由を求める声が市民の大規模なデモを生んだ。ところが、政府軍による一般市民の弾圧が始まると、それは瞬く間に凄惨の限りを尽くす拷問と虐殺の暗黒の時代へと様相を変えていった。映画作家オサーマ・モハンメドは、亡命先のパリで、故郷シリアの凄惨な実状に苦悩し続けていた。苛烈を極める紛争の最前線で繰り返される殺戮の様子は、日々、YouTubeにアップされ、ネット上には殺す者、殺される者双方の記録が溢れかえる。彼にはただそれを繋ぎ合わせることしかできなかった。そんな中、オサーマはSNSを通じてクルド語の“銀の水”を意味するシマヴという名の女性に出会う。破壊し尽くされ、惨澹たる戦場であらゆる映像を撮り続けるシマヴは、彼を“ハヴァロ”=“友”と呼び、オサーマの目となり耳となってカメラを廻し始める。その瞬間から2人の“映画”と、“シリア”あるいは“愛”の物語が始まる。それは夥しい犠牲者と戦場の様子を捉えたドキュメントにはとどまらず、個々の死に刻まれた深い傷とともに、絶望の中に普遍の愛を見出してゆく……。