1841年のことである。ニューオリンズの町にヨーロッパから流れこんだ、一人 の女があった。由緒ある貴族の血縁につながる淑女というふれこみであったが、クレール・ルドワーは氏も素性もいやしい女であった。ニューオリンズの独身紳士の中では一番の金持ちといわれるジロオはクレールにほれ、結婚を申し込む。ところがクレールはラツールというミシシッピー河の蒸気船の船長を見染めたので、富と愛との板ばさみになったのである。クレールの素性がバレかかった時、彼女はまたまことしやかな話をでっち上げた。ジロオはこの話をうのみにしたが、ラツールはことの次第を見破った。そしてある日、ラツールはクレールを彼の船に誘惑し、数時間を共に過ごした。クレールはラツールを愛していることをはっきり悟ったが、ジロオとの結婚式場へ心なくも急がねばならなかった。結婚行進曲が奏せられ、クレールとジロオが神父の前にひざまずいた時、彼女は会衆の中にある物音を聞き、それがラツールであることを知った。振り返ってラツールの顔を見た時、結婚する気は失せてしまった。ラツールが部下の水夫たちに命じて起させた騒ぎと共に、クレールは気絶した真似をした。数時間後、ラツールの船はカリビア海のとある海賊島へ向かっていた。デッキの上にクレールの笑顔が見えたことはいうまでもない。