「味」などの作品で知られる日本在住19年の中国人監督・李纓(リ・イン)が、「靖国神社」をテーマに作り上げたドキュメンタリー作品。「靖国神社」にはアジアでの戦争の記憶をめぐるもうひとつの歴史がある。日常は平穏そのものだが毎年8月15日になると、そこは奇妙な祝祭的空間に変貌する。旧日本軍の軍服を着て「天皇陛下万歳」と猛々しく叫ぶ人たち。的外れな主張を述べ立てて、星条旗を掲げるアメリカ人。境内で催された追悼集会に抗議し、参列者に袋叩きにされる若者。日本政府に「勝手に合祀された魂を返せ」と迫る台湾や韓国の遺族たち。狂乱の様相を呈する靖国神社の10年にわたる記録映像の中から、アジアでの戦争の記憶が、観る者の胸を焦がすように多くを問いかけながら鮮やかに蘇ってくる。そして知られざる事実がある。靖国神社のご神体は日本刀であり、昭和8年から敗戦までの12年間、神社の境内において8100振りの日本刀が作られていたのだ。「靖国刀」の鋳造を黙々と再現してみせる現役最後の刀匠。その映像を象徴的に構成しながら、映画は「靖国刀」がもたらした意味を次第に明らかにしていく。「二度と平和を侵してはならない」という思いを観る者の胸に深く刻みながら、夜の東京の空撮で映画は静かに終焉を迎える。これは全く新しい視点からの「靖国」の記録である。