1824年のウィーン、『第九』の初演4日前。ベートーヴェン(エド・ハリス)は、まだ合唱パートを完成させていなかった。途方に暮れていたベートーヴェンの音楽出版社シュレンマー(ラルフ・ライアック)は、音楽学校にベートーヴェンのコピスト(写譜師:作曲家が書いた楽譜を清書する職業)として一番優秀な生徒を依頼していた。そこに現れたのは作曲家を志す若き女性アンナ(ダイアン・クルーガー)だった。期待に反し、女性のコピストが来たことに激怒するベートーヴェンだが、彼女の才能や自分の音楽への深い理解が分かると、仕事を任せることにする。ついに迎えた”第九”初演の日。劇場へやって来たアンナはシュレンマーに、指揮棒を振るベートーヴェンにテンポの合図を送る役目を代わってほしいと懇願される。そのアンナが舞台裏で見たのは、耳の不自由さで満足に指揮棒を触れない不安と恐怖に駆られたベートーヴェンの姿だった。アンナは、そっと手を取って励ます。こうして二人三脚の指揮による歴史に残る『第九』の演奏が始まった。第4楽章『歓喜の歌』の演奏終了と共に大歓声があがる。翌日、署名入りの『第九』の譜面を贈られ、感激するアンナ。そこで作曲した曲をベートーヴェンに見せるが、彼の無神経な反応に心を傷めアパートを飛び出してしまう。自分の過ちに気づいたベートーヴェンは、アンナの下宿先を訪ね、この曲を一緒に完成させようと許しを請うた。それ以来、アンナはベートーヴェンの指導のもとで曲作りに没頭する。そんな中完成した”大フーガ”の演奏会は、散々な結果に終わってしまう。そのショックは思いのほか大きく、ベートーヴェンは無人の客席に倒れる。アンナは彼を献身的に看病し、二人の間には師弟を超えた危うい感情と、互いへの尊敬の思いがあふれるのだった。