目もくらむばかりにそびえ立つタキカルディ王国の高層宮殿。そこは、意に沿わない者を誰一人として生かしてはおかない孤独な王の居城だった。王の名はシャルル5+3+8=16世。皆は王を嫌い、王も皆を嫌いだった。唯一の気晴らしは、鳥を狩りすることと、独りでいること。愛することができたのは、絵の中の少女だけだった。王が引きこもる最上階の部屋には、3枚の絵が飾られていた。美しい羊飼い娘と煙突掃除の青年、そして、王自身の肖像画。ある夜、王が寝静まったその部屋で、3枚の絵が動き出す。手と手を重ねる娘と青年。ふたりは、恋をしていた。しかし、肖像画の王が娘に結婚を迫って二人の仲を引き裂こうとしたため、娘と青年は絵の中から逃げだした。肖像画の王は怒り狂い、自らも絵の中から飛び出して、ふたりを追う。しかしそのとき、騒ぎに気付いた本物の王が目を覚ました。目の前にいるのは、“もう一人の自分”。怯え慌てる本物の王は、肖像画の王によって落とし穴に落とされてしまう。本物の王に成り代わった肖像画の王は、娘と青年を捕まえるために国中に指名手配する。機械仕掛けの玉座を操る妄執王、槍を振り回す衛兵や、空飛ぶ警官隊、そして、街の人々までも…タキカルディ王国すべての人々による大追跡劇が始まった。娘と青年を助けたのは、宮殿の屋根に巣をかける一羽の鳥だった。鳥は、タキカルディ王国は罠だらけだから気をつけるよう、ふたりに注意する。鳥はずる賢く抜け目なく立ち回り、娘と青年は、めまぐるしく続く高層宮殿の階段を、どこまでも駆け降りてゆく。鳥とふたりが辿り着いたのは、大宮殿に覆われ、最下層で傷みと貧しさにあえぐ太陽のない町だった。