重厚な建物の問の石畳を路面電車が走り、人々の暮らしが数百年にわたってひっそりと息づいている静かな街。古びた建物の最上階に、父親と息子だけの小さな家族が暮らしている。父親(アンドレイ・シチェティーニン)は軍の前線で活躍していたが、今や中年にさしかかり、退役して予備役となった。彼は航空学校の学生だった頃、人生最初で最後の恋愛を経験した。妻となったその女性は、ひとりの男の子を産んだ。二人はともに20歳だった。妻は若くして亡くなったが、彼にとってこの愛は、今でも心のうちに秘めているかけがえのない幸福だった。成長した息子(アレクセイ・ネイムィシェフ)は、父親のように軍隊に入ろうとしている。父親は息子を見るたびに、妻を思い起こす。父親にとって、息子のいない生活など想像もできない。また、息子も父親を献身的に愛している。二人は互いの存在だけで充足して生きてきたが、息子は思春期を迎え、やがて父からの自立を成し遂げてゆく。