明治も終わりの頃。奉公先の旦那の手がついて妾となったものの、旦那の死により縁を切られ、生まれたばかりの娘・お種も里子に出し故郷に戻ってきたお浪は、士族であった父の病気と多大な借金のため、深川州崎遊郭の大店『大八幡』に身を売り、楓という花魁となっていた。三年ぶりに故郷に戻ってきたお浪は、お種が里子先でひどい仕打ちを受けていると婆やのおさわから聞かされ、店のお松の知恵を借り、年期を延ばして借金を重ねてお種を引き取ることにした。お浪には小田部という薬問屋の贔屓の客がいたが、お浪に入れこむ余りまだ一緒になれないことが分かると首を縊って死んでしまう。『男を破滅させる毒婦』と新聞に書きたてられたお浪はすさみ、酒に溺れ、人気もなくしていった。だがある日、上郷という相場師が全てを承知した上でお浪を身請けした。七、八年後。洲崎の海を見晴らす土手の上でお松が二代目の楓にそんなお浪の思い出話をしていたところへ、侍合の女将となったお浪が現れる。二人は涙ながらに再会を喜んだ。お浪は二代目・楓に、そして自分自身に言い聞かせるように、夢のように過ぎていった日々を語り、洲崎を離れていくのだった。