一高北寮に合宿する妻木、神津、飯田、松下、青木などの五人にも、廬構橋に銃声がひびき、やがて中国の留学生周があわただしく帰国するようになった頃から、時代の嵐がきびしく当るようになった。藤野章子は、義兄飯田に冷酷に扱われてから、一高生を憎み、偽一高生を装う憲兵伍長の手先となって、妻木に近ずき、学園内の自由主義者の情報を集めていた。その妻木は禁断の時計台にのぼって、黒いマントを残して姿を消した。墜死と人に噂されたが彼は某所に身をひそめて自由への闘いを戦っていた。その頃章子は病床にあり、妻木と思想をこえて愛し合うようになっていた。妻木は章子の病気篤しときいて、その病床を見舞おうとしたが憲兵の邪魔に逢って近よることが出来なかった。章子は来合せた神津や松下に自分の非を詫びて死んだが、アルピニストの妻木は清らかな大雪渓に章子の幻を描いて消えて行った。