田畑の中に点在する貧しい農家に祖父平作を残したまま、ゆきえは一子良吉をつれ、家出した夫良平の後を追った。北海道の炭坑に働く良吉と再会することが出来たが、良平にはすでに身ごもった、おたみという女があったのだ。ゆきえは女手一ツで良吉を抱え、よいとまけに出たり大福餅やするめを売ったりしたが、それでも可愛い良吉に晩御飯さえ食べさせられないのだ。一時は死を決心したゆきえだったが、良吉の将来を思えばそれも出来なかった。山形屋の酌婦として住みこんだゆきえは、良吉がせめて学校に上がるまでには、せっせと貯金をつづけ、自分の家をもちたいと念願していたがカン言で思い半ばで追い出されてしまった。しかし近所の人達の好意で、どうやら独立して料理屋を経営することが出来、良吉も学校に入り平穏な歳月が流れていった--。田舎に残してきた祖父の平作が良平の死をもたらしてきたとき、良吉はもう立派に成人した高校生で、ゆきえもれっきとした料理屋しののめの女将だった。ゆきえがかねてより良吉の環境を案じていたが、良吉はすでに芸妓の清香にひそかな思いをよせていたのだった。良吉には母ゆきえの親心が清香に対するシットとしか思えず、山形屋に乗りこんで酒に入りびたり始めた。しかし、そのゆきえのかつて働いていた山形屋のその部屋には幼い良吉をつれ秋田を逃げ出してからの長い月日の死の放浪、そして、そこに住み込んでからのゆきえの毎晩体を切り売りした当時の生活が、部屋部屋の天井のフシ穴に至るまで、愛する子ゆえに耐えしのんだゆきえの思い出が秘められていたのだ。それ等を知った良吉も非を悟り、父良平の葬式に参列すべく、何十年振りに母と子は故郷の土をふんだのである。しかしその時も故郷にたらされた電報はしののめの全焼だった。しかし二人は凡ゆる試練にもめげず明るく将来を誓うのだった。