母と故郷を捨てた名なしの権兵衛は針座を表稼業に、イカサマばくちの道具を売って旅から旅を歩いていた。土地の顔役小田井の次郎太郎は権力にまかせて、権兵衛からばくちの道具を取り上げ、権兵衛は怒りのあまり次郎太に一撃を喰わせて逃げ、追撃を受けたが百姓茂左衛門にかくまわれる。茂左衛門は二年前家を出たせがれ與三松の身の上を、ふと権兵衛にしのびながら、裏道からそっと逃してやった。権兵衛は深い感動のままにバクチの道具を谷底に捨てた。そのころ町は馬市の人気にわき立ち、見世物小屋が軒を並べていた。百姓甚兵衛も馬を売るべく、娘のおとよと共に馬市に急いだが、一足おくれておとよは途中恋人與三松に会う。その町の雑踏の中で権兵衛は追手を見て、娘手踊り小きん一座の楽屋に飛び込む。甚兵衛の馬は三十五両で売れたがこの大金に眼をつけた町の悪顔役権次は手下に因果をふくめて、定賭場に甚兵衛を連れ込みまき上げてしまう。怒った與三松は金を取りもどすべく定賭場にのり込むが、遂に深傷を負う、それを見た勝気のおとよはひとり権次のもとに行くが、好色の権次にはかえって絶好のえ物だった。甚兵衛は遂に狂って出刃ぼう丁片手に宿を飛び出す。その利腕をおさえ、與三松がかつての百姓茂左衛門の息子と知った権兵衛は、甚兵衛親子のために一はだぬぎ血の争いをさけて丸腰のまま権次一家をおとずれる。権兵衛の正義のひとみにさすがの権次も圧倒されて、金もおとよも無事に救われた。