南国の漁師町から憧れの東京に飛び出した若い男と女。けい秀作家を志した女はいまキャバレーのダンサーとなり、拳闘家を夢見た男はある婦女仲買人の用心棒となっていた。男は都会に見切りをつけ漁師となるべく帰郷の決心を固めた。その出発の前夜、はからずも知り合った故郷の同じ二人は心に通う何かを感じ始めていたが現在の自分に愛想をつかし海の生活に還ろうとする男の希望に反し、女はいまだに年来の小説家志望に固執していた。折も折、殺人事件が突発する。最も嫌疑の深い立場にある男を救うため彼女は夜明けまでに犯人を探すべく男を励まし活動を開始する。夜を徹しての捜査で疲れ切った二人が向い合った。事件の解決に協同しているうちに、もはや絶ち切れない愛情の糸で繋ぎ留められていることに二人は気付かなかった。別れの時刻が迫ってきた。「あばよ」「さよなら」男はたくましい後姿を見せて立ち去って行った。男は感慨を込めて車窓から流れる東京の街を見送っていた。ふと振り返ると、別れたはずの女が傍ににこやかに立っていた。「小説はどうしたんだい」「現実はもっと小説的ね、やっとわかったわ」二人に新しい生活の朝が開けてきた。まぶしい光の中を列車は走って行く。