野々宮浩介は復員後自分が妻に対して全く愛情を失っていることを知り、日夜煩悶していた。妻ひろ子はむつかしい両親にまめまめしく仕えていたが、浩介の両親にまめまめしく仕えていたが、浩介の両親は結婚の解消を望んでいた。いまの気持はどうすることもできず、両親の勧めに従い偽ってひろ子を彼女の故郷に連れ戻り、そこで離婚に同意させるため千葉の家から二人で上京する何も知らないひろ子のいそいそとした様子を見ている浩介の心には苦しいものがあった。二人はいま豪勢なブローカー生活をしている伯父夫婦の家を訪れたが、そこでひろ子が見たものは女をただ男のおもちゃとしか考えていない伯父の姿だった。浩介が伯父のそんな態度を肯定しているようなのもひろ子にとって悲しいことだった。そしてひろ子はふと浩介の荷物の中に隠された離婚同意書を発見し動揺する心を押えることができなかった。やがて二人は思い思いの気持で西下の汽車に乗ったが、途中浩介が発熱したため田舎の街に下車した。ひろ子は高熱の浩介を看病しながら、現在自分がおかれている皮肉な立場を悲しく思った。浩介は夜更けにふと廊下の片隅でひろ子が氷を割っている音を聞き激しく心を動かされた。翌朝決心したひろ子は良人に別れ一人で尾の道に帰郷した。故郷では事情を知らない祖父が久し振りの孫娘の帰郷を喜んだが、母や姉夫婦はひろ子をもとのさやに収めたいと考え説得に努めた。その頃ひろ子の跡を追って浩介がやってきた。しかしひろ子はやはり別れることが正しいのだと思い、友人絹子の勧めで職業に就く決心をした。浩介が訪れてきたとき、ひろ子は会いたくないと思ったが、二人だけで話し合うため海岸に出た。断崖の深い波の色を前に、二人は必死で向き合った。浩介は今度の旅行で始めてひろ子の本当の姿を発見し、自分や自分の家庭がいままで彼女を縛りつけていたことを詫びた。ひろ子がなければ生きて行けないという彼の言葉を背に、それでもひろ子は一度は無理にその場を去ったが、しかし本当にお互いが人格を尊敬しあう結婚、単なる愛情だけではないつながりを思うとき、いま心を翻して浩介の宿を訪れた。海の色が美しく窓に映え、波の音はのどかに聞えていた。