昭和34年9月26日・土曜日。名古屋市南部に住む小学校6年生の津島ひかりと近所に住むクラスメイトの西沢利夫はいつものように元気に登校した。明日の日曜は小学校の運動会の予定だったが、本土に接近している台風15号の為、中止と決まった。がっかりしたひかりは愛犬のブチを連れて堤防を走った。しかし、台風は次第に勢力を高め、遂に紀伊半島潮岬に上陸し、東海地方直撃が確実となった。不気味にうなる風の音に囲まれた家々、暴風雨はますます激しくなり誰もが家の中で心細い思いをしていた。利夫の家も暴風雨に吹き飛ばされそうになり利夫は必死で家を守った。午後9時35分、伊勢湾は満潮を迎えた。海面は異常に盛り上がり、高潮は堤防を乗り越え無数のラワン材を凄い勢いで人家の方へ押し流した。そして、利夫の家も波にのまれてしまい、一家は黒い水の中に沈んでいった。目の前を何人もの人が流されていった。ひかりの家もやはり流されてしまい、浮いたり沈んだりして流されていくひかりの後をブチが必死で追いかけてくる。ひかりはブチの首にしがみついた。翌朝、ひかりは神社の大きな木の枝に引っ掛かっていた。ブチがひかりを背中に乗せて必死で泳いで助けたのだった。それから30年、大人になったひかりは両親の墓参りの帰り道、岸壁にたたずんでじっと海を見つめる老人に気付いた。その老人は死んだ利夫の父・竜一だった。再会したふたりは、あふれる涙をぬぐおうともせず、静かな海をいつまでも見つめていたのだった。