東京の新開地にある「幌・内張株式会社」は自動車・オート三輪の幌を取替える店。この会社、小企業のサンプルみたいな小規模な組織で、使用人は小僧一人だが、重役諸公一家総出の働きで目下労働力に不足はない。ここの久吉社長の最大の悩みは“税金”である。昨年、久吉が病気でこの会社が全くの赤字であったにもかかわらず、不当な税金を容赦なく押しつけられたというので大憤慨。ヘソ曲りと自他共に許す久吉は、断固これをハネつけた。ところが久吉が憂さばらしに競輪場に出かけている留守に、税務署の役人が乗りこみ、商売道具をはじめ家具一切にペッタリと差押えの札を貼りつけてしまった。久吉の妻君はつ枝は、寿司屋をしている妹のお仙に、税吏の松井が気があるのに目をつけ、お仙をそそのかし色仕掛で税法のウラを嗅ぎ出させようと企んだ。しかし騙されたと知った松井が、怒りに慄えながら税吏の苦しさを語るのを見て、お仙はかえって彼に何か惹かれるものを感じるようだった。さて税吏来訪当日。久吉はあらかじめ用意していたノートを開きながら喋りまくるが、課長の堀部や松井のもの慣れた調子に圧倒されがちである。久吉の云い方は、昨年度会社は赤字だから税金を払う必要はない、というのだ。税務署側は、それなら異議申立てを税法通り申告しろという。この闘税問答は未解決のまま終り、遂に差押えのトラックがやって来るという事態にたち至った。だがその中に松井の姿は見えない。夜間大学生だった彼は税務署を止め、結婚するという。今度はお仙の方がホれこんでしまったらしい。荷物がすっかり運び去られた久吉の店は、さすがに寂しい。しかし、久吉も差押えによって納税の義務は果したわけである。苦しくとも彼は、再び明日から家族重役社員を率いて敢然と働くことであろう。