郁雄と百子は婚約した。会社の重役をしている郁雄の家と古本屋の百子の家の格式の違いを郁雄の両親は最初問題にしていたが、大学を卒業してから結婚するという条件で郁雄は説き伏せた。二人は清い関係で、結婚まではそれで満足だった。しかし、二人の間柄が公認されすぎると、何か物足りなさを感じ出したのも事実である。そうした時、第一の危機が来た。試験が終ったある日、郁雄は友人の画家高倉の個展で商業デザイナー本城つた子と知り合った。始めのうちは郁雄も問題にしなかったが、やがて彼女によって抑圧されている自分の性を、結婚までの間満たそうと考えはじめた。或る夜、郁雄はつた子のアパートを訪れた。しかしそこに親友の宮内が百子を連れて来た。宮内は郁雄にこの対決を迫る。無論郁雄は百子を選んだ。百子は郁雄を許しはしたが、自分を求めてくれなかったことが淋しかった。そして郁雄に何時でも許すと告げるが、郁雄はやはり恐しかった。百子の兄東一郎が盲腸で入院し、附添看護婦の浅香千鶴子と親しくなった。千鶴子の母あきは貧困からすっかりひねくれてしまった女だった。ブルジョア階級への嫉妬から、百子に野望を抱いていた高倉に彼女を取り持って、百子を堕落させようと計ったが、百子の機転で事なきを得、反対に東一郎と千鶴子の間は終りをつげる羽目になった。しかしこれは同時に、郁雄と百子をしっかり結びつけた。二人はもはや卒業までの半年を待たなかった。その結婚式の半ば、試験場に駈けつける郁雄と、ウエディング・ドレスのまま彼を送って行く百子の姿があった。