深夜、すでに灯の消えた東京駅十四番プラットフォームに、半透明の列車が音もなくすべり込んで来た。車輛から降りて整列したのは、サイパン島で玉砕をとげた部隊の将兵たちである。隊長の秋吉少将は「自分たちの肉親がどうなっているか見てくるように」と訓示を与えたあと、二重橋に向った。那須中尉が許婚の伊島雪子の家を覗くと、母親と二人ぐらしの彼女は女教師として働いていた。そして今でも那須を心の良人と決めていると知って、彼の胸には熱いものがこみ上げるのだった。河野中尉の家は焼けたままで、門柱だけしか残っていない。母の名を呼びながら夜の街をさまよう彼の姿はあわれである。この部隊に報道班員として従軍した能勢記者の愛妻キミ江は、社の同僚松木と再婚していたが、松木がキミ江と能勢の間に生れた光子を心から愛している様子に、能勢は彼らの幸福を祈りながら去った。二重橋で陛下に部隊を玉砕に至らしめた罪を詑びた秋吉少将は、その帰途、警官に連行されて行く自動車強盗がわが子だと知り愕然とした。手錠のまま逃走を図った息子は射殺された。その亡骸を抱えて秋吉は自分の死を呪わずにはいられない。気の弱い志水一等兵が、戦友町田一等兵につき添われてわが家へ帰ると、妻は内職のミシンを踏んでいた。息子新太郎は電車の整備員、娘の春子は明日が就職試験だ。母子三人が生きて行く姿を見て、志水はどんなにうれしかったことであろう。かくて、東京駅十四番プラットフォームに集合した将兵たちは、再び列車に乗ってサイパン島へ向うのであった。