湯治中の結城新兵衛は、碁の席上、言葉の行き違いから相手の浪人磯貝某に殺された。息子の新太郎と奴の訥平は、折悪しく不在だった為、顔に九つの黒子があるというだけで相手の顔も知らなかったが、主従二人仇討の旅に出た。やがて時が流れ、新太郎は病の為にある城下町の乞食小屋に臥す身となったが、訥平は忠勤をはげみ、槍踊をして投銭を稼ぐ日々であった。訥平はある日、雨やどりが縁で、妾のお市と知り合い、お市は素朴な訥平を愛する様になった。お市は新太郎に同情して病を慰めるためと鳥籠をくれるが、新太郎は訥平の乞食根生を罵り、鳥籠を返してこいと命じた。訥平が再びお市を訪れた時、たまたま旦那の須藤厳雪が現れ、訥平は刀で追われた。須藤の顔を見ると九つの黒子があった。訥平の必死の抵抗とお市の助けで、彼は逆に須藤を殺した。思わぬ所で仇を討った主従は、国もとへ急いだが、ほど遠からぬ宿場で須藤の息子静馬をはじめとする一団の追手に発見された。訥平の引渡しを要求された新太郎は、須藤を討ったのは訥平だという口実で、彼が字を読めないのをよい事に、須藤門下が待っている地蔵の辻へ訥平を送った。忠義一途の訥平は、この時ようやく卑怯な主人の裏切りを知ったが、下郎の腕では武士達の刀を防ぐ事が出来ず、彼を追って来たお市と共に殺された。心のとがめた新太郎は訥平を追ったが、彼を待っていたのは群衆の嘲罵だけだった。