今売り出しの落語家柳亭三升は、若くて一寸男前で、寄席での人気は噺そのものよりも噺が終ってからの「ひょっとこ踊り」に集中されていた。この踊りに下座で三味線をひいて調子を入れる銀子は、粋できれいで芸達者だが、どうしたものかこの二人は喧嘩をしないと夜も日も明けないという間柄だった。師匠金橋の家に下宿している三升は、師匠の娘の女子大生の雪子に内心熱烈な恋心を燃やしているのだが、及ばぬ恋と諦めて、それでも一生懸命にお世話をしているという有様だった。或る日、金橋の昔の恩人の息子、松井弘が東京で就職試験を受けるために金橋の家に宿をとった。そのため三升は今まで居た部屋を弘にあけ渡さねばならなくなり、自分は薄暗い三畳に追いやられた。もし弘が就職できたらひきつづき家に居ると聞いた三升は、弘の落第を祈るのであったが、その甲斐もなく弘は見事に合格、おまけに雪子の気持が弘に傾いて行くのが気になって仕方がなかった。ところが彼の努力は漸く報いられて、師匠の前名金升を襲名することになり、同時に金橋が雪子と三升を結婚させようとして居るのを知って、三升は天へも昇る気持だった。しかし反対に気は強いが三升に惚れきっている銀子は、落胆して前々からの話だった大阪行きを承知し、その契約金を全部投げ出して素晴しい晴着を買い、襲名披露の日に匿名でそっと三升の許へ届けた。一方、今では弘という恋人のいる雪子が、三升との結婚など承知するわけもなく、遂に諦める外はなくなった三升は、今度は銀子のことが思われてならないのだった。やがて三升が晴れの高座へ上る時が来た。