古河宿の親分七五郎の家へ草鞋を脱いだ旅鴉の礼三は、七五郎の一人娘お静に慕われたが、彼女には巳之助という許婚がある上に、礼三が三千石の旗本の次男であるため、父は娘の恋を諦めさせようとした。礼三も巳之助への義理をたてて旅に出た。三年後、七五郎は中風を痛み、縄張りは土手の甚三に荒され、無力な巳之助となった一人の子分友市を尻目に甚三は父娘に立退きを迫った。たまりかねて手向った巳之助は甚三に斬られた。そこへ不意に礼三が現れ忽ち甚三一家を追払い、単身で次々と賭場を取戻した。甚三は十手を預かる仁右衛門の力を借りて礼三の兇状を探ったが、旗本の息子と分って手も足も出ない。お静は巳之助の亡き今、晴れて礼三と夫婦になる日を待ったが、そこへ礼三の伯父六郷内膳正が訪れ、父と兄が急死のため礼三が後を継がねば家は断絶すると告げた。礼三は決心して、お静という女房があるから家へは帰れないと返事する。その一言を心にいだきしめ、お静は礼三を実家に戻した。江戸で柳沢豊後守を襲名した礼三は、日光営繕奉行の大任をうけ、一年間は日光を離れる事が出来ない。甚三はこれ幸と再び縄ばりを荒し、遂に七五郎を殺した。家もないお静は友市一人をつれ、流しの芸人としてやっと生きていた。一年たって大任を終えた礼三は、伯父に邪魔されて何も知らなかったが、初めてこれを知ると一夜やくざに身を変え、甚三の家にのりこんで彼と仁右衛門を斬り、侍をすてる気で、行列の後にお静と友市を従えて江戸へ向った。