慶応四年、旗本の出身ながら官軍の密偵を勤める高梨雄太郎は、幕府が和蘭から輸入した最新式の火薬製造の秘密工場を探りあわよくば爆破せしめるため江戸へ向い、岡崎の宿はずれで、剣打ちの女芸人お栄に会う。薩タ峠では幕府の脱走兵達に手ごめにあわんとする娘を助けた。この女こそ未だ顔を見ない雄太郎の許婚早苗が、彼を求めて京へ上る途中だった。然し雄太郎は任務を思って名乗らず、彼女に江戸へ帰れとすすめた。早苗は横恋慕する義母お沢の弟大篠範之助に富士川の堤で捕えられた。彼の言葉で先の男が雄太郎であるのを知ったが、監視の目が厳しくて逃出せない。やがて箱根をこえて小田原の宿。範之助は剣士佐久間慎助等と共に雄太郎を酒匂川原に迎え討ったが、逆に斬り崩される。早苗は唐津屋重兵衛に守護され、大磯で雄太郎と再会した。初めて抱きあう時、刺客に襲われ、雄太郎は短銃に射たれて馬入川に落ちて屍体も上らなかった。早苗はお栄に助けられて江戸へつく。お栄は浅草の芝居小屋に旧友歌八を尋ね、そこで幕吏に追われる雄太郎と再会した。然し早苗は一足違いで会えず、唐津屋に捕われた上、仮面をぬいだ重兵衛の毒牙にかからんとした時、心美しい彼の娘お光に助けられた。この時別室では火薬製造所長甲塚は、雄太郎に密通した罪で松平源太郎に死刑を宣告され、銃殺の直前、踊りこんだ雄太郎に救い出された。松平は時勢に抗し難きを知り邸に火をつけて自忍した。かくて雄太郎と早苗は結ばれ、唐津屋を仇と狙うお栄も、お光の情にほだされて仇討を断念した。やがて維新は訪れたが、雄太郎は幕府に殉じて町人となった。