川上安子は前夫武藤国務相との間に生れた子松夫を、その恋人、女子学生のりう子に托して北海道に移りすんだ。生活のため教師の職についたのである。朝鮮事変勃発を機に学園のなかにも政治活動がさかんになり、一夜松夫のアパートを会合の場所にえらんだ学生達は、りう子を交えて痛飲する。その夜りう子は学生の一人篠田に犯された。傷心の彼女は姿を消す。新学期とともに登校した松夫は、篠田の家を訪れその家蔭にやつれはてたりう子の姿を発見した。一方、わが子恋しさに旧知竹村の求婚をふり切って帰京した安子は、松夫の行方が判らぬままに東京経済新報社の社長秘書に就職したものの、社長茅野は武藤国務相へのコネクションと安子の美貌に野心を抱いていた。松夫もりう子も今は飛田達の地下運動に生き甲斐を感じ、細胞の連絡にビラ貼りに励んだが、松夫は日増しに孤独を感じ、りう子もまた愛情と仕事のジレンマに悩んだ。茅野の妻えみ子に面罵された安子は、母としての自分を自覚し松夫の苦悩をみかねてりう子と三人での旅行を計画する。牧場の草原にりう子は忌わしい秘密を打ち明け、昔のりう子に還ったのも束の間--昭和二十七年五月松夫はメーデー事件の渦に巻き込まれ、倒れた老婆を助けようとして死んだ。安子は我が子のために苦難の人生航路を強く、生きて来たのではあるが。いや、だが第二の使命を賭けながら、安子は、そしてりう子はすすみ行くに違いない。