天保年間、江戸は神田お台所町の裏露路に住む平次は、二十そこそこの若さながら名岡っ引の父平太郎の血をうけたか、はやくも与力笹野新三郎にねだり落した十手捕縄を預かるあっぱれ親分ぶり。従う子分は日傭作業員にのんびりアルバイトする八五郎。飴や家業のしがなさで風采はあまり上らないが、キリリとしたいい男前に近所の娘は大さわぎ、ことにも豆腐やのお静は毎日平次宅に現われてはやもめの彼の身辺に何くれと世話をやく。それが深間におちぬのは、女の子とつき合うと銭がかかる--という死んだおばあちゃんの遺言を、平次が服庸しているせいである。その頃江戸市中に贋小判が横行し、酒問屋「虎屋」の四斗樽に詰った他殺死体の袖からその贋小判がこぼれたことから、虎屋の酒蔵にしのびこんだ平次と八五郎は、立ちふさがる覆面の怪漢を平次得意の投げ銭で追いちらし、樽三つにつまった贋金のストックを押収して引揚げた。町奉行所から勘定奉行に廻されたこの押収品の調査はお役所仕事ののどかさか、さっぱりはかどらぬうち、被害は刻々増大し、商人は落ちついて店もあけられぬ。虎屋から酒造業の丁字屋、さらに意外、勘定奉行所の内部にまで捜査の手が及ぶが、証拠がない。乞食にまで変装の憂身をやつして、四斗樽殺人の犯人丁字屋の手代をとらまえたが、彼も謎の死をとげ、平次、八五郎も途方にくれる。しかし天佑--平次の家の売上げ銭をふしぎな野良猫がくわえて逃げ、十手をふりかざして追いかけた二人は、こんどは他の家から贋小判をくわえてきた猫を逮捕、この一件から贋金つくりの本拠をつきとめて、数百の捕方の出動となる。首魁は勘定奉行の用人雨森であった。あっぱれ一番手柄、いささかの褒賞も入った平次は、晴れてお静と夏祭り見物にでかけた。