徳川五代将軍綱吉は、柳原甲斐守の進言で、側室お照の方の生んだ国丸を世嗣にしようとしていた。その頃、水戸郊外に隠居していた水戸黄門が夜釣に出たまゝ行方不明になったが、黄門は腹臣渥美格之進、佐々木助三郎と共に百姓の隠居姿で江戸に現れた。伊勢屋の娘お浪は、甲斐の屋敷へ奥女中にあがっていたが、甲斐守の妾になることを強いられ、逃げて恋人飴屋の辰三の許にかくれた。辰三の妹お鈴の想う長次は、巾着切だったが、お鈴は長次が真人間になることを誓わせた。彼等の住む長屋に黄門主従が移り住んだ。以前黄門の煙草入れをすってその身分を知った長次があやまりに行くと、黄門は自分は光圀に似たのを種にするゆすりだと長次をごまかした。お浪は黄門を知っていて甲斐守が水戸家臣大館源之進を陰謀に引入れていることや、国丸が実は甲斐守の子であることを告げた。辰三が禁令の犬をあやまって殺し死刑になるときいて黄門はわざと大名の飼犬を毒殺して奉行所へひかれた上自分の身分を明した。そして自らの失態に恐れをなす町奉行に辰三をも釈放させることに成功した。が、光圀が現われたと知った柳原一味はお浪をさらった上に、大館源之進を暗討しようとした。助さん格さんに助けられた源之進は前非を悔いてすべてを黄門の前にざんげした。黄門はこの確証を握って柳原の屋敷へ乗り込み、人を遠ざけて甲斐守を声涙共にいましめた。甲斐は一言もなく、黄門の差出す罪状書に署名した。しかしその帰路の廊下で、黄門は落し穴に落された上、水責めに逢った。助さん格さんは又も柳原一味にさらわれたお浪を救い出したが、胸さわぎを感じて再び柳原の屋敷へ引かえし、源之進の必死の助力を得て黄門の救出に成功した。折から江戸城表御殿では綱吉出御の上、甲斐守の策謀で国丸嗣子の決定がなされようとしていた。この上は副将軍の水戸綱条公の登城を待ってその署名を得るばかりというとき、水戸様のお成りの声と共に姿を現わしたのは黄門であった。奸臣はあばかれ、生類御憐みの行きすぎた悪法も撤去された。かくて黄門は再び漫遊の途に旅立った。