鏡山十五万石、前田石見守には橘姫、櫻姫のふたりの息女があった。姉の橘姫は遠縁に当る前田縫之助と婚礼間ぎわに彼が失そう、何者かに殺されたと伝えられたので仏門にはいる決心をした。そこで妹櫻姫に江戸から松平家の二男慶次郎を婿養子に迎えることになった。しかし、家老の蟹江一角は局岩藤やその兄大崎主膳と共に妾腹の子松若丸を世継ぎにしてお家横領を企んでいたので、これを喜ばず、忠義な中老尾上や次席家老の榊兵衛部を亡きものにしようとして色々な陰謀をめぐらせた。尾上の実家岡本屋伝兵衛に恩義をうけた浪人坂間十内の娘お初は、尾上の召使となり、岩藤一味にねらわれる尾上の身辺を護った。しかし、仏門に賊が入り千鳥の香炉が盗まれた責を受け、尾上はついに自殺してしまい、江戸から到着の筈の慶次郎も消息をたったのを幸いに、岩藤一味が最後の手段として病床の石見守まで殺そうとしたとき、突然二名の虚無僧が現れて危急を救った。それは身の危険を知って身を隠していた縫之助と、旅の途中の危難を彼に救われた慶次郎とであった。鏡山城では、橘姫と櫻姫の二組の花々しい婚礼の式があげられ、忠義なお初は重く取立てられた。