巨人軍の合宿では今日も朗らかで、また厳格な練習が行われている。天才的な投手といわれ、自分も自惚れていた谷村は最近数試合に登板させてもらえないことに不満を持っていた。殊に、巨人軍の十年選手として選手指導に当たっている捕手有川の育てたノンプロの第一人者若松がプロに転向、入団して来て、試合に出場するようになり、その冴えた投手振りに非常な人気を得てからは、若松が自分に代わる者でわないかという恐れで、次第に有川へその憤懣を以て行った。そして田島監督に、有川が監督をねらっていると注意して、かえってたしなめられる彼であった。殊に、谷村を投手陣にカムバックさせる議がおき、有川がその指導に当たることになってから、その厳格な指導ぶりを、谷村は又しても自分へのつら当てだと曲解するのだった。この感情のもつれが爆発したとき、水原主将の仲裁で、谷村も一切を水に流すと約束したが、過労のため田島監督が病床に臥して、その死にのぞんで、彼が心をこめて谷村に諄々と説いたスポーツマン・シップの真髄は、彼の心を美しく洗ったのだった。やがて、田島のあとを受けた有川監督の下に試合する巨人軍の選手たちの中に明るい若松の顔が見られるようになった。