新橋菊之家の菊奴は、踊りと男嫌いで通った芸者だったが、抱えの文江が愛人の、芸能新聞の記者瀬木の子を身ごもったと知ったとき、文江に早く腹の子を処分することをすすめた。それは彼女の過去に同じ経験があるからだった。十九年前花子と名乗って芸者で出ていた時、彼女は愛人山川にすてられその上二人の間の子供を、相手の夫人に取りあげられてしまったのだった。それからの彼女は一時自棄になって、堅気になった親友の春子がたずねて来ても無愛想にあしらうのだった。しかし、終戦後山川家の焼跡をたずね、自分の生んだ子の行方も知れないとなると、彼女は呆然としてしまった。が、偶然出会った昔の師匠しげに会ったり、春子にはげまされたりして、再び新橋から出て、今は芸一本で生きる名妓としてうたわれていた。彼女を世話しようという土建屋安田の元主人が山川で、安田の口から娘百合子が山川夫人の手で立派に育てあげられると聞いたとき、彼女は娘に会えないながらも生き甲斐のわきあがるのを感じた。そして母情のせつなさを描いたが故にことわっていた新作「隅田川」を踊る決心をすると共に、文江にも立派に赤ん坊を生めと、あたたかくいうのだった。