享保十一年二月、新吾は江戸へ上った。晴れて親子対面の儀がかなったのだ。東海道を箱根路に入った時、何者かの発砲にあった。それから数日、新吾は武芸を売りものにする旅の一座藤井一家に加わっていた。放生一真流武田一真に出会った。白源流梅井多門先生の仇を討たねばならぬ。だが、そこへ一人の男が現われた。二条殿時代新吾に敗れた宗田豊之進の仇と名のる多羅尾平八である。平八とその一味との闘いに疲れた新吾は一真の一刀を受けた。気がついた時は、豪奢な夜具の中だった。かつて世話になった老中安藤家の綾姫の看護で、傷は快方に向った。新吾はさらに新しい剣の道を求め、少年小猿の次郎を案内にして中部の山岳地帯に足を入れた。ある日、次郎の口から父の仇「葵新吾」という名をきいて驚き、小松道場を訪ねた。そこの門弟は新吾が次郎の仇でないことを認めたが、するともう一人の新吾がいるはず。偽の新吾は今日小松ケ原に引き出すとなっていることが分る。が、小松ケ原に待っていたのは、柳生家直系の剣士たち、その中には平八の姿があった。はかられたのだ。新吾は平八を倒し次郎の仇を晴らした。そして、松代城の真田伊豆守に迎えられ再び江戸に上ることになった。が、新吾はまたまた城を抜け出したのである--。