おせんは器量よしで、吉原時代には相当の売れっ妓だったが、彼女の客が三人相次いで変死したことから“死神おせん”の仇名がつき、裏見世まで落ちていた。だが人の噂で、酔客にまで恐れられ、ここでも彼女を相手にする客はなく、まるで掃き溜めに鶴のような存在だった。だがただ一人、イカサマ博奕をしている小悪党の富蔵だけが、情夫きどりでおせんのもとに通いつづけていた。おせんは富蔵の口ききで、枕絵師・英斉のモデルに何度かなっていたが、ある日、英斉の家からの帰り道、不逞の輩たちに襲われ、近くの墓場へ連れ込まれた。驚いたことに、彼らの後で絵筆を持った英斉が不逞の輩たちをケシかけている。最後には富蔵もおせんに襲いかかった。事が終った後、さすがのおせんも、ふらつく腰をどうすることもできなかった。帰路、おせんは道端で心中未遂をして晒しものになっている若い男女を見た。粂蔵とお蝶の二人である。おせんが家に辿りついてすぐに見知らぬ男が訪ねて来た。お蝶の兄で清吉と名乗ったその男は、おせんがお蝶を見た時「きれいな眼をしているねえ」と言ったのを聞いて後を付けて来た、と言うのである。そしてお蝶は盲目であるというのである。お蝶は浄瑠璃語りの三味線弾きで、梅吉という男と恋仲だったが、横恋慕した粂蔵がお蝶を犯したことから、こんな事になってしまった、と清吉はおせんに話した。翌日も清吉は来た。だが、彼が実は梅吉だった。女を抱いても燃えない彼は、お蝶を抱く勇気がなかったのだ。そんな梅吉は、おせんに人形になってもらい、人形を操つるようにして、始めて女を抱くことができた。男として初めて自信のでた梅吉は、おせんを女房として上方へ連れて行こうと誘った。その夜、富蔵がイカサマ博奕がバレて、おせんの家にころがり込んで来た。さらにその夜、女郎の一斉取り締まりが行なわれた。おせんと富蔵は女郎仲間のお松に隠れ穴を教えられ何とか危機を脱するが、その中で富蔵は息を引き取った。梅吉との約束の時間は既にすぎていた。約束の場所に急ぐおせん。だが、すでにその場には梅吉はいなく、人形の頭におせん宛の手紙が置かれてあった。「大阪でお待ちしてます……」