日本敗色の色濃くなりつつあった昭和二十年四月。多くの都市が焼かれ、子どもたちは集団疎開がはじめられていた。蓮池一枝も夫が召集されたので、一人息子の太郎を連れて、福島県磐城郡米川村の実家に帰るところだった。実家は古くからの醸造家だが、今は、軍の命令で味噌をつくっている。一枝の母、野本みよが、夫の死後、三十年、女手ひとつでこの酒蔵を守り続けている。小学校二年の太郎にとって、大きな門構え、味噌樽、土間など、見るものすべてが珍しい。そんな太郎にみよは、二番蔵にだけは近寄るなと言う。実家には、一枝の他、二枝、政枝の二人の娘がそれぞれ戦争のかげりをもって身を寄せている。ある夜、二枝が警察に呼ばれ、アメリカ人の夫と娘エミのことを追及された。憲兵は夫のアーノルドが対日放送で“降伏”を訴えていると言う。みよは自分の反対を押し切ってアメリカ人と結婚した二枝に怒り、世間の非難から守るために孫のエミを蔵に閉じ込めているのだ。太郎は二番蔵が気になってならなかった。ある晩、太郎は母を捜して浴室を開けると、二枝と金髪の少女がいた。「アメリカ人がいる!」と言う太郎に、一枝はあなたのイトコ、と教える。憲兵や警察が執拗に二枝にエミの存在をたしかめに来る。気丈なみよは、その都度つっぱねていた。エミの悲しい顔が忘れられない太郎は、二番蔵のそばの柿の木に登り、窓からエミと話した。その日から、二人の対話がはじまる。学校の出来事、空中戦の話、勉強のこと、エミは太郎によって外気にふれることが出来た。太郎のくるのが待遠しかった。ある日、グラマンの機銃掃射で数人の村人が死んだ。何人かの村人が、野本家に押し寄せ、この家にスパイがいると怒鳴りだした。ついに憲兵が村人とともに踏みこんできた。観念したみよは二番蔵を開いた。しかし、エミはいなかった。その頃、エミは太郎と素裸で川遊びをしていた。金髪が大陽に可愛く揺れている。青い瞳ははじめて解放された明るさに輝き、唇は外気を精いっぱい吸いこもうと大きく開かれていた。二人の笑声が、緑の樹樹にこだましている。しかし、それは、一時の喜びにすぎなかった。エミに死が近づいて来てた……。