1640年。雑多な人で溢れ返るブルゴーニュ劇場の中で、ひときわ目立つ大きな鼻の持ち主、詩人にして剣客とその名も高いガスコンの青年隊の偉丈夫、シラノ・ド・ベルジュラック(シェラール・ドパルデュー)が大声を上げた。今しも彼が秘かに思いを寄せる従妹のロクサーヌ(アンヌ・ブロシェ)に色目を使ったモンフルリーを舞台から引きずり降ろし、それに言いがかりをつけてきたヴァルヴェール子爵--かねてより妻ある身でありながらロクサーヌを狙っているギッシュ伯爵(ジャック・ヴェベール)の手先となっている男--と決闘しようというのである。騒ぎの夜、シラノはロクサーヌから伝言を受けるが、それは彼女の慕う美青年クリスチャン(ヴァンサン・ペレーズ)がガスコンの青年隊に入隊するので、彼女の思いを伝えてほしいというものだった。自らの鼻にコンプレックスを抱くシラノは無念をかみしめ、ロクサーヌのために愛の橋渡しを務めることになる。こうしてシラノはクリスチャンのために愛の手紙を書き、口説き方を伝授するが、一方シラノに怨みを抱くギッシュ伯爵は仕返しのためガスコンの青年隊を戦場に送ることにするが、それを知ったシラノの機転でロクサーヌとクリスチャンは出陣の前夜ににわか仕立てながら結婚式を挙げることができた。 シラノはクリスチャンにも無断でどんなに戦闘が激しくなってもロクサーヌに一日2通の恋文を届けることを忘れなかった。それを知ったクリスチャンは危険を省みず戦場にやって来たロクサーヌに、シラノも愛を告白すべきだと言うのだが、その間もなくクリスチャンは銃弾に倒れ、ロクサーヌはシラノが書いたとも知らず手紙を恋人の思い出と共に胸にしまう。そして14年、修道院で暮らすようになったロクサーヌのもとをシラノが訪ねてくるという日。相変わらず敵の多いシラノはその途中で頭上から材木を落とされて重傷を負うが、はうようにしてロクサーヌのもとへ向かう。あのクリスチーヌの恋文を読ませてくれと頼み、シラノは朗読を始めるが、夕闇の中にもかからわず一言一句間違いなく諳んじる聞き覚えのある声に、ロクサーヌははじめて手紙の主が彼であったことを悟る。しかし時すでに遅くシラノはロクサーヌに看取られて息絶えるのだった。