健全な頭脳を持ち平和な家庭の主人公であった中年の化学者は、ある夜隣家に起った殺人事件が動機となって、次第に精神上に恐るべき変化を起し始めた。彼は美しい自分の妻に疑いを持ち出し、奇怪なる脅迫観念に襲われ、遂には、その苦痛に堪うる能はずして、我と我が生命を断とうとまでも決心するに至った。この時依頼をうけて、この化学者を診察した医師は、その病症を精神上の疾患と診断し、フロイト博士の有名な「心理解剖」の理論に従って研究をすすめた。その結果患者の心の中に巣食う潜在意識や、その他病源と見るべきもろもろの不可思議な観念の姿が剔出され、分析され、整理されて、化学者の病気は忽ち快復した。