今世紀初頭、その美しい歌声で多くの観衆を魅了したジョアキム・ダレイラック(ホセ・ファン・ダム)は、舞台の上で突然引退を宣言した。自らの現役活動に限界を感じていた彼は、愛弟子ソフィー(アンヌ・ルーセル)のために、今後の人生の全てを賭けるつもりでいた。と同時に、自分の死期をも悟っていた。彼のこの決意は、固く悲壮であった。ある朝ジョアキムは、市場でスリを働く青年、ジャン(フィリップ・ヴォルテール)の美声を耳にし、彼の持つ才能を直感したジョアキムは、以後二人の弟子に自分の歩んできた道を授けることになる。そんな中で、いつしかソフィーはジョアキムに想いを寄せ、ジャンはソフィーを愛し始める。しかしジョアキムがソフィーの愛を拒否した夜、彼女はジョアキムが長年の音楽仲間エステル(シルヴィー・フェネック)の伴奏にあわせて歌っている姿に言いようのない深く大きな絆を感じる。そしてその時、ソフィーはジャンの愛に気づくのだった。ある日ジョアキムは、スコッティ公爵(パトリック・ボーショウ)の主宰するコンテストに愛弟子二人を出場させることを決める。かつてジョアキムと声を競いあい、その結果咽喉を潰したスコッティは、ひそかにジョアキムへの復讐の機会をうかがっていた。そしてコンテストの日、公爵は白分の愛弟子とジャンとを、かつて自分たちがアリア合戦をしたように戦わせようとした。果たしてジャンが勝利を手にした時、彼とソフィーのもとにジョアキム死すの報が届くのだった。