オーソン・ウェルズ自らが案内するのは地中海に浮ぶイビサ島。ここには、今世紀最大といわれるぺてん師が二人もいた。ピカソ、マチスなどの絵を描き上げてしまう贋作画家のエルミア・デ・ホーリーとエルミアの伝記「贋作」を書き上げたクリフォード・アーヴィングだ。エルミアは陽気な初老紳士で自分の贋作に絶対的な自信をもっているが、いつも官憲に追われる不安感があり、自分自身の美術を創造したいと望んでいた。アーヴィングがぺてん師と呼ばれるようになったのは、謎の大富豪ハワード・ヒューズのニセ自伝事件を起こしたからだ。アーヴィングがこっそりとヒューズに会ってインタビューを重ねてまとめあげたというヒューズ自伝がアメリカの出版社から刊行される直前、ヒューズ側から待ったがかかったのだ。七人の記者を集めた電話による奇妙なインタビューで、ヒューズはアーヴィングなどという男に会ったことはないと証言したのだ。それは、果たしてヒューズ本人の声だったのか。ヒューズは謎の人物であり、人前に姿をあらわさない男であった。果たしてヒューズなる人物は本当に存在していたのか? そして、ウェルズ自身もフェイカーのように世渡りしてきたと告白する。彼の名をいちはやく高めた「火星人襲来」はラジオによる偽造だ。彼は、何世紀もの間人々の賛美を集めつづけたシャトルの大伽藍を見つめる。誰がつくったのか署名のないこの聖堂……。人間の名前など所詮たいした問題ではないのか? ウェルズはまた魔術を披露して、映画は終わる。ピカソは「芸術はひとつの嘘である」と言ったが、ウェルズはそれに「真実を理解するための嘘である」とつけ加えて--。